NPO東海道吉原宿・三浦大輔氏インタビュー

若者が、好きなことを好きなだけすることで、まちが良くなっていく。
「やりたいやつがやる」ことでまちづくりを達成する。
そんな楽しげな仕組みをつくり、実践しているのが、NPO東海道・吉原宿だ。


「個人商店的な発想」・・・たったひとりが経営から広報までを行う、という発想から、脱却する。
むしろ、たくさんの人が、それぞれ得意分野を発揮し、それらの組み合わせによりまちづくりを行う。
どこにでもあるはずの商店街は、こうした「大手企業的な発想」で変化している。


今回は東海道・吉原宿事務局長である、三浦大輔さんにお話を伺った。


<事業内容>
吉原の商業高校生によるチャレンジ・ショップ「吉商本舗」、フェアトレードショップ「プレアーテ」、授産施設の商品を扱うショップ「YO-LABO」などの商業活性化実験事業。シャッターアートやTシャツグランプリなどの芸術文化推進事業。



<インタビュー>


−−−−活動の背景となった問題は


吉原は、特別なにかがあったというわけではなく、本当にどこにでもある商店街だった。
そしてどこにでもある商店街と同じく、いろんな挑戦をしてきたわけです。朝市をしてみたり、ナイトフェスタといった試みもしてきた。
だけど何もかわらなかった。
根本的な問題は何か、ということを考えたとき、商店街の人たちが自分のことだけを考えてやってきたから変わらなかったのではないかというひとつの仮説にたどり着いたんです。
自分のことを考えるのじゃなくて、単純に、ここのまちで何かしたら面白いんじゃないかと思っている人が何人かいるんじゃないか。そこで、あえて「吉原の商店街じゃない人でも入れる組織」として東海道・吉原宿ができたんですね。


最初は、商店街4人と外部の人6人くらいで始まった。たとえばシャッターに絵を描くとか、そういうところから始まっていくわけ。それがだんだんだんだんひろまっていったんですね。

実はシャッターに絵を書くという発想は、商店街を盛り上げる手段としては基礎中の基礎なんです。地元の小学生中学生がわーっと書くといった感じで行われるんですね。
でも、たとえば「シャッターに絵を描きましょう」といったとき、うきうきしながら書く子もいれば、いやいや書く子もいるわけです。いやいや書く子がいるくらいなら、本当に好きな子に書いて欲しいというのがあった。
「頭を下げない」といういいかたは変なんだけど、こう、描きたい人を募集し、描きたい人にかいてもらおうということにしたんです。本当に、ネット上で、描いてくれる人を募集しただけだったんですね。
すると一番最初に大阪の大学生が描きに来て、次は新潟の高校生が卒業旅行として描きに来た。県外の人がすごく多かったんですよね。そこから、どちらかと言うと「アートならアートをやりたい人向けに発信する」そうやって「やりたい人がどんどん集まれる」といった体質にまちを変えていったんですね。



−−−−現在のメインの事業について教えてください



一番最初にはじめたのが、高校生によるチャレンジショップだった。
それは、高校の方から「お店を出したいんですけどやる場所ありませんか」というところから始まったんですね。それで最初は、「こうこうせいがおみせをやります」みたいな感じで始まったけれども、結局、「どういった商売をしていく」というコンセプトはなかった。
日本全国いろんなところに高校生のお店があります。でもだいたい1年、2年しか持続しないんです。
なぜ2年でつぶれるのか。
ひとつは、そうしたお店が、「物を買う場所」じゃなくなっているというところがあります。来たお客さんに対して物を売る、ということは一応やっているんだけれども、「来てもらうために何をすべきか」ということや、「何故お客さんがこの商品を欲しいがるのか」ということを考える、という発想がなかったんです。
でも僕らは常に、「なぜお客さんがこの商品が欲しいがるのか」ということを考えている。そういうことを高校生にもしっかりやってもらわなきゃいけないと思ったんですね。商店街の内側にいるからには、「売る人」になってほしいんです。
また、高校生が授業でこういうお店をだそうとすると、経営から営業までぜんぶやろうとするんですね。
でも普通の企業というのは、帳簿付けは税理士さんにたのむだとか、販促やチラシを作るのは広告屋さんに頼むだとか、案外、1から10まで全部やる、ということはしていないわけ。自分が司令塔ではあるけど、こまかいところはぜんぶ、業者さんがやっています。
だから高校生にも、できれば「物を売る」ということに特化してほしいと思ったんです。売ることに専念してもらって、「お客さんはまず何が欲しいのか」「どう思って買おうとしているのか」というところを感じてもらうことにしたんです。
今のメインの事業としては、この高校生のチャレンジショップと、フェアトレードのお店、授産所の子どもたちが作ったグッズ販売のお店がある。どれも、売ることによって人を応援しているんです。僕たち商店街の出来ることは商品を売ることであって、売ることを通して社会的な価値を見出すこと。
またこうした発想で動く人を応援しようのが、このNPOの活動なんですね。




−−−−吉原宿の考え方の原点とは



大手の会社と個人商店の違い、というのがあって、例えば個人商店の人たちと話していると、明らかに「考え方がちがうな」という感覚があったんです。
何故考え方がちがうのかと考えたとき、個人商店の人は、1から10までやっていることに気づいたんです。大手の会社に行くと、営業の人は営業、広告の人は広告のことしか考えてない。分業でつきつめて考えているから、大きなパワーになるわけです。
これはまちづくりにもいえることで、1から10までまちづくり関わるのではなく、自分の得意分野をまちづくりに反映させるといい。まずはそれぞれが好きなことをする。一方で、それをどうしたら反映できるのか、ということを考える人がいる。そうしたコンビネーションを作るんです。だから若者は基本的に、「好きなことを好きだ」とちゃんと人に伝えられればいいんじゃないかな。
おそらく社会起業家といわれる半分の人は、自分の好きなことをしているんですよ。ひとのためになろうと思っている人もいるかもしれませんが、むしろ好きなことがたまたま反映できたみたいな。
こうなりたい、こうなってほしいという好きな希望に対して、どう突き進んでいくか。その方向が、個人の利益なのか、みんながいるからこそ楽しいのかという違いです。うちの場合は、みんながいるから、楽しいから、どんどんパブリックに、社会的になってきたんだと思う。私自身も、自分が好きなことをしていると、たまたまそれが社会的だった、という感じだったんです。



−−−−事業資金についてお聞かせください。



東海道吉原宿は、NPO法人だけれども、寄付金をほとんどもらっていない。
ください、という活動も特にしていない。会費も年間1000円という超激安なんです。そしてこの会費は、「吉原宿で活動しているぞ」と思っててもらうためだけに、払ってもらっている。総会のときの飲み代なんですね。でもとりあえず1000円払えば吉原宿のひとになれる、という意識が得られる。
それよりも、ショップによる売上によって活動を続ける、というところにすごくこだわっているんです。



−−−−市民に求めたい支援



ひとつはやはり、いろんな活動に、まず参加してもらうことが大事だと思っています。
別にそんな毎週一回来いとかそういう話じゃなくて、イベントがあるときにお客さんとしてきてくれるだけでも違うと思うし、その延長として「この日だけ手伝います」といってくれる運営スタッフが現れ、またそのままずっと「手伝います」というスタッフが欲しい。物理的な人材が欲しい、というのがある。
ただ、それだけではなく、「こんなことをしたらおもしろいんじゃないか」という言いだしっぺ的な人が欲しいです。いろんな人がいろんなことを思いついて、いろんなことを言うと、いろんな事業ができるわけ。
がんばって企画しようとしなくてもいいので、「こんな事がおもしろい」とまずは言い出す人が欲しい。そしてゆくゆくは「吉原」っておもしろいんだよねと言ってくれる人というのが生まれてくると、めちゃめちゃいいなと思います。




(インタビュアー、文:杉村)